新規事業における経営判断とは「仮置き」を決断すること

新規事業における経営判断とは「仮置き」を決断すること

新規事業の成功に対してのタイムスパンの設定や既存事業との距離感にもよりますが、基本的にイノベーションには判断するための指標や軸がありません。誰も見たことのない未来を今よりもより良くするのがイノベーションですから、誰もそれを知らないので、何が「良いアイデア」なのか「良い事業」なのかを判断することができなくて当然です。

成熟事業であれば、先人たちが積み重ねてきた仮説検証の結果をもとに組み上げられたオペレーションがあります。それを元に計画を立てることができ、結果を検証することもできます。そしてその結果から次のアクションを導き出したり、カイゼンに繋げることができます。

一方で新規事業においてはそれができません。より遠く、より飛躍した未来を目指そうとすればするほど、過去の知識や経験が活きるかどうかすらわからず、そのバイアスが未来に辿り着くことを阻害する要因にもなりかねません。そして大抵の企業は、既存事業において成果を残し出世した人が判断者となり、新規事業をバイアスによって評価をするために、正しい目利きができていない現状があります。

特に仮説検証です。仮説検証の重要性は新規事業界隈の誰もが主張をしていますが、一方でその仮説検証が正しいかどうかを判断するほどのエヴィデンスが揃うことはないということは軽視されているように思えます。つまりそれはロジックによって新規事業を判断することは難しいということです。定量的に誰でもわかる判断基準がそこには存在し得ないということです。

仮説検証を通じて得られるのは示唆です。定性的な顧客の声(「これはほしい」「もっとこうならいい」「絶対事業化してほしい」など)であったり、統計学的に信用足らない(指標数が足りない)定量的な結果であったり。

ここで必要なのは「インサイト」に辿り着くこと。この「インサイト」にも誤解があり、仮説検証の活動を通じて必然として見えてくるものだという勘違いの風潮がありますが、インサイトは推測するものです。

検証結果を総合的に判断し、顧客のペインやゲイン、ニーズには、顕在的に見えてきたものの裏側に、潜在的で本質的なものがあることをアートな発想により見出すものがインサイトです。

そしてその推測したインサイトをもとに、次のアクションプランを策定し、また仮説検証を繰り返していく。それがイノベーションを実現するための活動なのです。

つまり、インサイトにおいても、ネクストアクションの決定にしても、必要なのは「仮置き」です。

ロジカルに判断するための必要な材料が揃っていなくても、揃えることに執心するのではなく、多少方向が見えてきた段階でスピーディーに推定によって一定の結論を出し、次の仮説検証にうつっていく。

たった一つの仮説の検証のために、ロジカルに判断するエヴィデンスを集めることばかりに時間をかけていては本末転倒であり、手段の目的化です。その正確性はイノベーションにはさして意味はありません。

スピーディーな判断によって進んだ先が全て誤っていてもいいのです。それは「仮説が間違いだった」ことが検証されたという、十二分に意味のある検証結果です。間違いであることがわかることの方が、同じ仮説検証でぐるぐる回っているよりは遥かに有益なのです。

経営層における経営判断においても、事業サイドの事業判断においても、意識すべきで、かつこれまでのバイアスからパラダイムシフトしなければならないのは「Fail Fast, Learn a Lot」することです。そのために、経営判断とは、事業判断とは「仮置き」を決断することなのです。

経営者は事業サイドが積極的に、また心理的安全の元で「Fail Fast, Learn a Lot」できるように権限委譲を決断することもまた、同時に必要です。

両利きの経営における「探索」は、新規事業を確実に成功させることではありません。探索とは、成功するかどうかわからない状態で、仮置きによるFail Fast, Learn a Lotを通じて、成功可能性の高い事業の種をみつけることです。

仮置きのカルチャーの醸成なくして、探索はあり得ないのです。

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ビジネスクリエイター、インキュベーター、アクセラレーター、コンサルタント。エンジニアとして、PHP/HTML/CSSのマークアップ言語によるWebサイトの制作、SEOエンジニアリング、アクセス解析アナリストを経験した後、IT領域の技術/潮流をベースとしたエスタブリッシュ企業向けのコンサルタントを経て、複数のIT企業にて、Web/アプリ系、O2O系、IPライツ系の新規事業立ち上げに注力。事業開発から経営企画業務まで、事業および会社立ち上げに関する業務を幅広く経験。また、シードフェーズのベンチャー複数社の立ち上げへの参画や経営戦略・組織戦略・PR戦略へのアドバイザリー、メンター、複数のアクセラレーションプログラムのメンターも手がける。