新規事業を進めていると、よく「社長が承認してくれない」「経営層の理解が足りない」「制度や提案する場がない」「上司がイケてない」などと、社内に対する愚痴を耳にする機会が多いです。
もちろんそれらはひとつひとつが真実であり、真理であり、しっかり解決しなければならない論点です。
一方で、それらに対して、愚痴を言ってるだけに留まっている人が多いのも事実です。飲み会の酒の肴にする程度ならいいですが、進まないことを他人のせいにしているだけなのなら、大問題です。
そこに課題があると気付いたのなら、ぜひ解決するために動き出すことを意識しましょう。他責にするのは楽です。自責で考えて、自らできることを探して、取り組みを進めるのは、辛く苦しい道のりです。その茨の道を歩む覚悟を持ててこそ、新規事業の成功者足り得るのです。
つまり、社長や上司、組織、制度に、新規事業をうまく進めるとの出来ない原因があるのだとしたら、それを解消することも、新規事業を作る仕事の範囲に入ってくるのです。特に第一人者であれば、そこまでやらなければ、成功することはできないといっても過言ではありません。
では、上役に対してどのようなアプローチをしていくのが正しいのか。意識すべきなのは「説得」ではなく「対話」であるということです。
「説得」とは、相手と考えや価値観が異なるときに、相手がこちらの考えや価値観に対して納得し、受け入れ、価値観や行動を変化するように働きかける行為です。
イノベーションや新規事業に対するリテラシーの低い上役に対して、イノベーションの必要性を説いても、理解してもらえなかったり、反発を受けたりする経験をしたことはないでしょうか。
それは「説得」の過程に「論破」が含まれることが原因です。「論破」とは、相手の論点の弱点を突いたり、論理をすり替えることによって、自分の優位を(しかも一時的な優位を)示す行為です。
つまり、イノベーションの必要性を説くことが、必然的に既存事業の悪しき点の指摘に見えてしまうのです。
必要なのは「説得」ではないのです。「対話」です。
「対話」とは、互いの論点を擦り合わせながら、その穴を補うことで新しい洞察を共に獲得する行為です。
現状のままでいいと思っている人を説得すれば、どうしても論破が出てきます。しかし現状のままでいいと思っている人と、現状を変えなければならない人が互いに対話をすることができれば、どちらも考慮した解決策に辿り着くことができる可能性が出てきます。
その可能性を探ることこそ対話であり、イノベーションのための組織づくりや文化づくり、制度づくりに欠かせないものなのです。その小さな針の穴さえあかなければ、何も変えることはできないのですから。
現状のままでいいことも正義。現状を変えなければならないことも正義。見る角度によって正義は変わるのです。
だからこそ、説得や論破ではなく、対話によって組織のあるべき姿を探っていくことが重要となるのです。