新規事業のアイデアを考えるときに、大企業の方がやってしまいがちなのが「20代〜40代男女」とか「高齢者」といった漠然とした顧客ターゲットを設定すること。
もちろんアイデアの最初にそれをやることは否定しません。けれど、アイデアをブラッシュアップして考えるときには、顧客ターゲットは漠然とさせず、徹底的に絞り込むことをオススメします。
その理由は3つあります。
①デモグラフィックで定義してもそこに顧客はいない
②顧客の課題は顧客を絞り込めば絞り込むほど浮き彫りになる
③漠然としたターゲットに圧倒的な価値は提供できない
①デモグラフィックで定義してもそこに顧客はいない
「ペルソナ」という言葉を一度は耳にしたことがあると思います。顧客ターゲットを考えるというときに、ペルソナを作るということを想像して、属性をひたすらに書き出すことだと思う方は多いです。
もちろん属性で考えることが悪いことではないのですが、属性で定義してもそこに顧客はいない、ということがほとんどです。
一昔前の昭和の時代は、モノが圧倒的にない時代でしたので、皆がそのモノを手にするという1つのライフスタイルを共同幻想として持っていました。なので、デモグラで「20代男性」と定義すれば、欲しいものというのは自ずと共通に定義できました。
令和の現代は、人々の価値観が多様化し、求めているものも異なります。一概に「20代男性」といっても、現代の若者は皆一様にスポーツカーを欲しがったりはしません。そもそも車を所有することを必要としない人も出てきます。
なので、定義すべきは「行動」です。「20代男性」はモデル化できなくても「もうすぐ小学校にあがる子供がいて、共働きの女性」と定義すれば、共通点が浮き彫りになりモデル化できます。きっとこの方達は保育園から小学校に上がるときの「小1の壁」に怯えていることでしょう。
②顧客の課題は顧客を絞り込めば絞り込むほど浮き彫りになる
新規事業は特に顧客の「課題」を知ることが重要です。
マーケティングの世界でよく聞かれる話として「顧客はドリルが欲しいんじゃない。穴が欲しいんだ」という話がありますが、あれだと足りません。もっと踏み込んで「顧客は壁に絵をかけたいから穴をあけたいのだ」というところまで行き着く必要がありますし、「しかし、賃貸マンションに住んでいるので出来れば穴をあけたくない」という課題を抱えていることも知らなければなりません。
「賃貸マンションに住んでいて、壁にかける絵を購入するぐらいセンスがよく、年収は1,000万前後。ミニマリスト的なライフスタイルをしているが、人生に彩が欲しい」というような顧客行動を抱えている人だ、というイメージが湧きませんか?
顧客が本当に求めているゲインとニーズ、そこにあるペインや課題に辿り着くためには、徹底的に顧客を絞り込むことが必要です。
絞り込まなければGoogleで検索すれば出てくる程度の課題にしか辿り着くことはできません。その程度の課題であれば、誰でも思いついていて、既に商品が提供されていることでしょう。そうすれば後は価格競争というレッドオーシャンで戦う以外の戦略が見出せなくなってしまいます。
③漠然としたターゲットに圧倒的な価値は提供できない
特に新規事業において意識しなければならないのは「圧倒的な価値」を提供することです。
顧客は常に課題を抱えています。その課題を真剣に解決しようとする人であれば、すでにその課題を解決するためのアクションをしているはずです。何がしかのサービスにお金を払って解決しようと動いているはずです。
新規事業で一番最初にターゲットに設定すべきなのはそういう人なのですが、そういう人からスイッチしてこちらのサービスやプロダクトを利用してもらわなければならないのです。なので、今あるサービスと同等程度のサービスを提供するだけでは、スイッチは起こりません。スイッチさせるために圧倒的な価値を創り出さなければならないのです。
だから顧客は明確に絞り込むべきなのです。漠然としたターゲットには、幅広く解決する方法としてのサービスやプロダクトは世の中に存在します。ターゲットが絞り込まれれば絞り込まれるほど、世の中にあまたあるサービスやプロダクトでは解決できなくなっているはずです。
極端な話、N1(指標数が1名)の課題を解決したら、それは圧倒的に高い価値になるはずです。なにせ自分一人しか課題に感じていないのですから、世の中に絶対それを解決するサービスやプロダクトは存在しません。おそらく普通なら100円程度のものであっても、この人はそこに1万円とか10万円でも払うでしょう。
こうして圧倒的に価値を受け取った人は、必ずエヴァンジェリストに転じます。インフルエンスをしてくれるでしょう。N1の課題を感じている人の周りには、必ず同様に課題を感じている人がいるからです。
そうして共感する人が増えていくのと同時に、ターゲットを広げていけばいいのです。機能や商品ラインナップを増やしていくのです。そのときにはブランドが出来上がっているはずですから、多少広がっていったとしても圧倒的な価値は持続されています。
ぜひ皆さんに覚えおいていただきたいこと。それは「みんなにとって良いものは、みんなにとってどうでもよいもの」であるということ。
ビジネスとしては幅広い顧客に提供することが正しいですが、新規事業であればあるほどそれは間違っています。
世の中を変えるイノベーションを起こすからこそ、徹底的に顧客を絞り込み、まずはN1に圧倒的な価値を提供することから始めなければなりません。
それが実現できれば、自ずとマーケット全体をディスラプトするような、大きなイノベーションのうねりがうまれているはずです。
「小さく生んで、大きく育てる」こと。これが新規事業の鉄則です。