Q. 大企業がスタートアップと組むオープンイノベーションに関心がありますが、成果が出ないことも多いと聞きます。成功の条件や本当に意味のある提携とは何でしょうか?
- ︎ コーポレート・アクセラレーター・プログラムの大半は“見かけ倒し”で終わっている
- ︎ Giver不在の組織は、オープンではなくクローズドに陥る
- ︎ 成功する協業の鍵は、顧客関係に近い“Venture Client”構造
「成果の出ない提携」に10年を費やしてしまった
**この10年間、日本中の大企業がこぞって取り組んできたのが「コーポレート・アクセラレーター・プログラム」だ。**華々しくPRされるその取り組みは、一見すると未来志向で希望に満ちたものに見える。しかし現実は違った。ほとんどのプログラムが1〜2年で消え、目に見える成果を残した例はごくわずか。いや、むしろゼロに等しい。
**理由は明快だ。**いけてるスタートアップは、いけてるVCと組み、すでに他の大企業と連携している。コーポレート・アクセラレーター・プログラムにやってくるのは、「プライズハンター」と呼ばれる賞金目的の“いけてない”スタートアップばかり。そして彼らに伴走するのは、オープンイノベーションを社内で煙たがられた“いけてない”担当者。つまり、構造的に“マッチしない者同士”を無理に組み合わせているのだ。
現実には、KDDI、JR東日本、東急のようなインフラ企業や、NEC、RICOHのように自社内に活用しきれていない技術資産が眠っている企業だけが、比較的うまくアクセラレーターを機能させている。 しかしそれも、明確な課題設定や自社アセットの棚卸し、そしてリソース投入があってこそだ。
「うちもやれば何か起きるかも」という安易な模倣からは、何も生まれない。 オープンイノベーションに万能薬(シルバーバレット)はないのだ。にも関わらず、この“ごっこ遊び”に多くの企業が時間と労力を費やし、経営層には「オープンイノベーション=効果なし」という誤解が植え付けられた。結果として、日本のイノベーション環境は10年分の停滞を余儀なくされた。
スタートアップは“大企業の下請け”ではない
**コーポレート・アクセラレーター・プログラムはその名が表す通り「育ててやる」という、大企業のスタートアップを下にみる思想が包含されている。**これは完全に時代錯誤だ。
**スタートアップは、自らのビジョンとプロダクトを磨き、市場で戦っている独立した存在だ。**彼らは「天命」「使命」を最優先に動いており、大企業にとって都合のいい機能開発を求められたところで、特にそれが売上にもならず、成長にも繋がらなければ、前向きに取り組むわけがない。
にもかかわらず、多くの大企業担当者はいまだに「スタートアップを使っていやる」という上から目線を持ち込んでいる。 そんな姿勢に、スタートアップ側が愛想を尽かすのも当然だ。
共創とは、“支配”でも“指導”でもない。 対等な関係性において、双方が「やるべきこと」を重ね合わせて初めて成立するもの。ベンチャーにとってのビジョンと、大企業にとっての戦略が重なる点──そこを見つけ出すのが担当者の本当の仕事である。
「Give」なくして、組織のイノベーションは成立しない
**そしてもうひとつ、見落とされがちな重要な論点がある。**それは「Giver」の存在だ。新規事業やオープンイノベーションにおいて、組織の誰かが“見返りを求めずに与える”役割を果たさない限り、持続可能な連携は築けない。
**特にコーポレート・アクセラレーター・プログラムはそれが強い。**自社にとっての利益のあるなしを物事の判断基準にしては、スタートアップをアクセラレートすることは叶わない。短期的には自社にとっての利益が捨てられるかどうかは、最初の成功の鍵なのだ。(とはいえ、長期的にメリットがあるかどうかはもちろん判断基準にすべきだ)
それは内部にとっても同様だ。 既存事業部にとって、スタートアップとの協業はコストでしかない。既存事業部にはオープンイノベーションに取り組むインセンティブは全くもって働かない。
だからこそ、橋渡し役として“Giveし続ける人”が必要なのだ。 組織文化としても、短期的成果にばかり目を奪われず、中長期のリターンを信じて動ける人間を評価しなければ、どんな制度も根付かない。Giverのいない組織は、閉じていく。閉じた組織でオープン・イノベーションは決して生まれない。
なぜVenture Clientモデルは有効なのか?
**オープンイノベーションにおける現実解は、「スタートアップの顧客になること」──すなわち「Venture Client」モデルだ。**これは、大企業がスタートアップの製品や技術を自社の課題解決に直接導入するというもの。
**スタートアップは大企業の“言いなり”にならず、自社のプロダクトを売り、改善していける。**一方、大企業は本当に必要な技術だけを選び、社内導入の現場判断で進めることができる。
これはアクセラレータープログラムのような、担当者の属人性に依存するコラボレーションとは異なり、実装ベースの現実的な連携だ。 顧客として契約を結べば、事業部にもメリットがあり、納得感も生まれる。両者にとって最も健全で、かつ再現性が高い仕組みである。
現に、欧米の先進企業──BMWやBASF、Nestléなどはすでにこのモデルに舵を切っており、日本企業もNECや日立が一部で導入を進めている。 今後、オープンイノベーションを“制度”として根付かせるには、この方向へのシフトが不可欠だ。
最初にやるべきは「自社の本気の問い」を持つこと
**すべてはここから始まる。**なぜオープンイノベーションをやるのか。どの領域で、どんな課題を、どんな制約の中で解決したいのか。自社にとって本当に必要なものは何か。そこが曖昧なままでは、スタートアップと何を共創しても意味がない。
成功する企業は、必ず“問い”がクリアである。 そしてその問いが、自社内で解決できないことも理解している。だからこそ、外部と真摯に向き合い、敬意を持って連携する。オープンイノベーションとは、まず自分たちの“無知と限界”を受け入れるところから始まるのだ。
THE SEEDS 81
イノベーションの種を撒き散らかす手紙。
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