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身近な課題から生まれたアイデアは、「小さいまま」で終わるのか?

身近な課題から生まれたアイデアは、「小さいまま」で終わるのか?

Q. 自分の身の回りの課題からアイデアを考える方法が最も考えやすいと教わってきたが、事業として小さくなりやすいという不安がある。たとえば子どもが料理で火傷をしたので、火傷しない調理器具やキッチンがあればと思うが、事業としては小さそうだし、子ども用調理器具など競合もいそうだ。こうしたアイデアは、どうふくらませていけばいいのか。

  • 「小さい」のはアイデアではなく、課題を見ている高さの問題だ
  • 課題という「熱源」と、どんな未来を作りたいかという「引力」が出会う所に、事業は立ち上がる
  • 競合がいることは、そこに需要が実在する何よりの証拠だ

「小さい」のはアイデアではなく、課題を見ている高さだ

まず、ひとつはっきりさせておきたい。 「火傷しない調理器具」というアイデアが小さく見えるのは、アイデアが貧しいからではない。課題を「症状」の高さで見ているからだ。

火傷は症状だ。 子どもが火に近づく、目を離した隙に手を伸ばす、熱源がむき出しになっている――これらの奥には「親が付きっきりでないと、子どもに料理を任せられない」というもっと大きな課題が隠れている。さらにその奥には、「家庭の中で、誰かを安全に見守り続けなければならない」という、共働き世帯すべてに共通する重い負荷がある。

火傷という一点だけを見れば、市場は「子ども用の安全グッズ」に閉じる。だが一段上に登れば、そこは「家庭内の安全と見守り」という、途方もなく広い地平に変わる。IHクッキングヒーターが普及した背景も、突き詰めれば「火を使わせずに安全を担保する」という同じ課題だった。

課題は、見上げる高さで市場の大きさが変わる。小さいのはアイデアではない。まだ症状の高さで止まっている、その視点だ。

どんな未来を作りたいのか、から始める

課題を大きく捉え直す前に、もう一つ、必ず立てておく問いがある。 「ボクは、どんな未来を作りたいのか」だ。ふくらませ方の話は、ここから始まる。

課題は、下から突き上げてくる力だ。 「我が子に火傷をさせたくない」という痛みが、事業を下から押し上げる。この熱は何より貴重だ。だが、押す力だけでは、どの方向へ伸びるかが決まらない。もう一つ、上から引っぱる力がいる。それが、描きたい未来だ。

同じ「火傷」という課題でも、掲げる未来が変われば、ふくらみ方はまるで違う。「家庭を安全にしたい」で止まるのか。それとも「子どもが、大人の監視なしに、自分の手で世界に触れていける社会をつくりたい」まで行くのか。後者を掲げた瞬間、火傷しない調理器具は、その壮大な未来へ至る「最初の一歩」に姿を変える。

変わるのは、それだけではない。未来という到達点から逆算すれば、火傷しない調理器具のほかにも、そこへ向かう選択肢がいくつも見えてくる。その選択肢に優先順位をつけ、どれから踏み出すかを決断したとき、未来へ辿り着く一歩と道筋が、初めて輪郭を持って立ち上がるのだ。

課題という熱源と、未来という引力。この二つが出会うところに、事業は立ち上がる。身近な課題から始めるのは、正しい。ただし、そこに「作りたい未来」を掛け合わせて初めて、アイデアは進むべき方向と、目指すべき大きさを手に入れる。

課題は「上下」に動かして、事業のサイズを選ぶ

作りたい未来が定まったら、次はその方向に沿って、課題を「どの高さで切るか」を決める。 ここが事業のサイズを選ぶ作業だ。

課題には解像度がある。 「火傷しない調理器具」を上へ抽象化していくと、「子どもが安全に料理できる環境」になり、さらに上げれば「家庭の安全マネジメント」になる。上に行くほど市場は広がるが、同時に漠然とし、巨大な競合がひしめく戦場になる。逆に下げれば、鋭く具体的になるが、市場は狭くなる。

上げすぎれば大企業と正面衝突する。下げすぎれば、たしかに小さな商売で終わる。ボクたちがやるべきは、掲げた未来へ向かう線の上で、自分の会社が勝てて、かつ十分な広さがある「ちょうどいい高さ」を見つけることだ。

たとえば火傷の一段上、「子どもが安全に、料理を体験できる」あたり。ここは手触りのリアリティを保ったまま、対象が一気に広がる交点になりうる。課題を上下にスライドさせて、自分たちが立てる高さを探す。これが、ふくらませる作業の骨格だ。

「同じ痛み」を持つのは、子どもだけじゃない

課題を上下に動かしたら、次は横だ。 「火傷しない」という価値を必要としているのは、本当に子どもだけだろうか。

少し想像してみてほしい。 手元が見えにくくなった高齢者。目を離せない乳幼児を抱えた親。視覚に障害のある人。何品も同時に扱うプロの厨房。大人数の食事をつくる介護施設や保育園。「火や熱で怪我をしたくない」という痛みは、驚くほど多くの人が、それぞれの事情で抱えている。

自分の子どもの火傷という、たったひとつの体験(N=1)を、「同じ痛みを持つ人は他に誰か」という問いで横に広げる。すると、点でしかなかった課題が、輪郭を持った市場として立ち上がってくる。ここで大事なのは、広げるのは「受益者」であって、出発点になった自分の子どもの体験ではない、ということだ。

熱源は残す。届ける相手を増やす。この順番を間違えなければ、身近な課題は狭いままでは終わらない。

競合がいるのは、むしろ朗報だ

「子ども用の調理器具には競合がいそうだ」――この不安について、ボクははっきり逆のことを言う。 競合がいるのは、朗報だ

新規事業でいちばん怖いのは、競合がゼロの市場だ。 競合がいないというのは、多くの場合「まだ誰も気づいていない金脈」ではなく、「誰も欲しがっていない」の別名でしかない。逆に競合がいるということは、そこにお金を払う人が実在するという、動かぬ証拠だ。市場があることを、競合が肩代わりして証明してくれている。

負けるのは、競合と「同じ土俵で、同じ戦い方」をしたときだけだ。既存の子ども用調理器具の多くは、「刃を丸くする」「軽くする」といった、道具そのものの改良にとどまっている。ならば、こちらは土俵をずらせばいい。道具単体ではなく「キッチンという環境ごと安全にする」という切り口。あるいは「親が付き添わなくても子どもが料理できる」という体験の切り口。

同じ課題でも、「誰の、どの瞬間を助けるか」をずらせば、競合の隣に自分だけの土俵をつくれる。競合の存在は、避けるべき壁ではない。市場が実在するという、ありがたい道しるべだ。

熱源を捨てて大きく見せた企画書は、誰も動かさない

ここで、ふくらませ方をひとつ間違えると起きる悲劇について書いておく。 「小さく見せたくない」という不安から、自分ごとの体験をどんどん薄めてしまうことだ。

火傷した我が子の話を消し、「日本の家庭安全市場は数千億円」という大きな絵だけを描いた企画書。 たしかに立派に見える。だが、それはきれいで、冷たい。読んだ誰の心も動かさないし、何より、つくった本人の執念が続かない。事業を最後までやり切らせるのは、市場規模の数字ではなく、「あの痛みをなくしたい」という自分ごとの熱と、「こんな未来を作りたい」という譲れない願いだ。

大きな事業も、最初から大きかったわけではない。Amazonは本だけを売る店から始まった。Uberは黒塗りの高級車の配車から始まった。入口はどれも、笑ってしまうほど狭い。だが、その創業者たちの頭の中には、狭い入口の奥に、途方もなく広い未来の景色が広がっていた。

だから、いま「小さく見える」ことを恐れなくていい。確認すべきは、その狭い入口の背後に、自分が本気で作りたい未来がつながっているか。それ一点だけだ。熱源と未来。この二つさえ握っていれば、入口は小さくていい。

アイデアをふくらませる、明日からの一手

ひとつ、「ボクは、どんな未来を作りたいのか」を一文で書く。 火傷の話ではなく、その先に見たい景色を書く。ここが、すべての起点になる。

ふたつ、課題を一段上げて言い直す。 「火傷しない調理器具」を「子どもが安全に料理を体験できる環境」と書き換える。それだけで見える景色が変わる。

みっつ、同じ痛みを持つ人に、三人でいいから会いに行く。高齢者でも、共働きの親でも、保育の現場でもいい。自分の想像を、他人の言葉で殴ってもらう。

よっつ、時間軸で広げる。火傷が起きる「前」の予防と、「後」のケア。一瞬の商品ではなく、体験の前後をつなぐと事業になる。

いつつ、「◯◯という道具」ではなく「◯◯という、片付けたい仕事」で語り直す。Job To Be Done。人のニーズは「ドリル」に対してではなく、「穴」に対してだ。

身近な課題は、小さくない。小さく見えているだけだ。 どんな未来を作りたいか、から始めよう。 課題の高さを変える。受益者を横に広げる。熱は、絶対に手放さない。

そうすれば、その未来へ向かって、事業は伸びていく。

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