Q. スケールする事業を創るには、下ごしらえとして未来社会を見据えたビジョンを定義することが必要ですか?
- ︎ スケールする事業の前提は、「社会の変化とともに広がる構造」にある
- ︎ 未来のあるべき姿から逆算することで、ニーズの“芽”を捉えられる
- ︎ ビジョンは“下ごしらえ”ではなく、“未来を引き寄せるための構造”である
スケールする事業とは「構造」が変わるときに生まれる
**スケーラブルな事業──つまり時間や地理的な制約を超えて、大きく成長する事業には、ある共通点がある。**それは「社会の構造そのものが変化するタイミングで生まれている」ことだ。
**スマートフォンの普及、SNSの台頭、ライドシェアの社会的受容。**こうした変化の波に乗ったビジネスは、技術力以上に「構造変化の本質」を見抜いたからこそスケールした。
この構造を見抜く力の源泉が、「未来を見る力」、つまりビジョンである。 未来社会の姿を思い描ける人間だけが、その未来に求められる新しい価値を、前倒しでつくることができる。
ビジョンは“正解”ではなく“確信”である
**ここで言うビジョンとは、「社会がこう変わるはずだ」「未来はこうなるべきだ」という意思と確信である。**未来において人々の価値観がどう変化し、生活がどう変わり、何が新しい“当たり前”になるのか──それを描くことがビジョンだ。
**それは予測ではなく、提案に近い。**たとえ不確かでも、自分たちが信じる未来に意志を込めること。それがあるからこそ、世の中の小さな兆しに気づけるし、いま起きている行動や変化の“前触れ”としての意味を捉えられる。
未来の“正解”を当てにいくのではなく、自分たちが“信じられる未来”を掲げ、そこに賛同してくれる仲間や顧客を集めていく。 ビジョンとは、未来に向かって人と組織を巻き込むための“磁場”である。
荒唐無稽なビジョンが、スケールの種になる
**ビジョンは例えば「家賃を無料にする賃貸」のように、一見したら荒唐無稽で実現不可能と思えるものを掲げる。**いわゆるムーンショットなものだ。
**ムーンショットとは、困難で莫大な費用がかかるが、実現すれば社会に大きなインパクトを与える野心的な目標を指す。**ジョン・F・ケネディが掲げた「1960年代が終わるまでに人類を月に送る」という言葉のように。
荒唐無稽なビジョンがあるからこそ、そこに向かう道筋にはクリエイティビティが必要になる。 単なる改善案では届かない。だからこそ、イノベーティブな発想が生まれる。ビジョンとは「正気の世界における狂気の種」であり、それこそが未来を変える力になる。
ビジョンがあるから、“芽”を見つけられる
**スケールする事業のアイデアは、未来から現在を見つめたときに見つかる。**なぜなら、未来のあるべき姿が描けているからこそ、いま目の前にある「未整備の余白」や「違和感」に敏感になれるからだ。
**「すべての人が家賃が無料で暮らせるようにする」というビジョンがあれば、「いま、なぜ人は家賃を払って家を借りているのか?」**という問いが立つ。その問いを持って観察すれば、既存の賃貸ビジネスの事業構造のメタ的理解、賃貸だからこそのサービスの不備や不満、日常の中にある家に求めることの構造的理解、無意識の選択行動の偏り──そういったものが目に入りやすくなる。
ビジョンがあると、未来と今のギャップが見える。 そのギャップの中に、まだ誰も拾えていない“ニーズの芽”が埋まっている。
ビジョンがなければ、小さな一歩も評価されない
**新規事業は「小さく始めて大きく育てる」が鉄則である。**しかしビジョンがないと、その一歩目は“矮小なプラン”にしか見えない。
**経営層に「これが我が社の未来を切り拓く一歩だ」と理解してもらうには、事業プランではなく“ビジョン”を語らなければならない。**未来をどうしたいのか、その未来がなぜ必要なのか。そこに対話の軸を移すことで、小さなPoCも「探索の一環」として前向きに受け止められるようになる。
ビジョンが共有されていれば、一歩目の失敗も「次にどう活かすか」の糧になる。 つまり、前に進み続ける“意志”を組織に灯すには、ビジョンの存在が不可欠なのだ。
スケールとは「ビジネスを外に拡張すること」
**そもそも、スケールという言葉は曖昧に使われがちだ。**一定程度社内で統一の定義をして使わなければならない。
**グロースとは、今ある事業を成長させること。**スケールとは、その事業を“外に拡張すること”だ。具体的には、チャネル強化によるスケールアップ、海外展開・横展開・フランチャイズなどによるスケールアウト。
つまり、ビジネスモデルとして構築された“方程式”の外側に、新たな顧客や市場、領域を切り拓いていくこと。 それこそがスケールだ。
人は感情で動く。だからビジョンにはストーリーが必要だ
**理性では前に進めないのが、新規事業だ。**なぜなら、証拠がないから。確率も読めないから。リスクが高すぎるから。
**人を動かすのは、エヴィデンスではなく感情だ。**よく「人間は象使いと象に例えられる」と言う。象使いが理性、象が感情。どれだけ理性で説明されても、象が暴れ出したら止められない。つまり、心が動かなければ、人は動かない。
だからこそ、ビジョンにはストーリーが必要なのだ。 第1話から丁寧に積み上げたドラマが最終話で感動を生むように、ビジョンもまた、原体験や顧客との出会い、そこから生まれた問いや想いとともに語られるべきである。
ビジョンだけを語っても、誰も動かない。 背景、意味、プロセス、仲間、未来。それらすべてを物語として語ることが、新規事業における最大の説得力になる。
ビジョンは“下ごしらえ”ではない。それ自体が武器になる
**「ビジョンを立てるのは、まずやるべきことの整理でしょ?」**と思っているなら、それは誤解だ。
ビジョンは“準備”ではない。 それ自体が、顧客に意味を届ける武器であり、仲間を巻き込む磁場であり、ステークホルダーを動かすエネルギーだ。
スケールしたいのであれば、未来を語ろう。 世界をどう変えたいのかを、誰よりも自分が信じよう。
ビジョンは、未来を引き寄せる構造そのものである。
THE SEEDS 81
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