Q. 若手に「最初は小さく始めていい」と伝えると、将来の拡張性がまったくない、超ニッチで閉じたアイデアを出してきます。どう伝えれば、将来性のある“小さな一歩”を踏み出せるでしょうか?
- ︎ 「小さく始める」と「小さい事業をやる」は、まったく別物
- ︎ 将来構造から逆算し、拡張余地のある起点を切るのが重要
- ︎ 一点突破の仮説検証から「面」に広げる設計力がすべて
「小さく始める」は“起点の話”であって、“器の話”ではない
**「レッドオーシャンを避けて、小さく始めよう」と伝えると、若手から返ってくるのは「地元の農家さんと繋ぐアプリ」や「個人店向けのDX支援」など、超ニッチでマネタイズも困難な“小粒アイデア”ばかり──という相談はよくある。**だがこれは、こちら側の言葉の設計ミスでもある。
**「小さく始める」とは、あくまで“スコープを限定して仮説検証を行う”という戦略であって、“事業の器が小さくていい”という意味ではない。**スタートアップでいう「スモールスタート」は、「最初の一手の最適化」であって、「ずっと小さくやっていく」ということではない。
つまり、「事業の将来像は大きく描き、その構造の一部から検証を始める」という“バックキャスト”の考え方を、セットで伝えなければならないのだ。 「ビジョンはムーンショット、アクションはフットワーク軽く」──このギャップが、新規事業における正しい力のかけ方だと、教えてあげる必要がある。
大きな未来を描き、最小の一手に分解する
重要なのは、「いきなり小さな市場を狙う」アイデアを考えたり、いきなり行動し始めることではなく、「将来的に狙いたい大きな構造」をまず想像し、その大きな構造をどういうステップで成し遂げるかという「グランドデザイン」を戦略として描くこと。
**そこから逆算して、「最初に仮説検証するには、どのセグメントが適しているか?」**を考える。つまり、“スモール”なのは市場規模ではなく、“仮説検証の対象”なのだ。
たとえば、将来は“中小製造業のBtoBマーケットプレイス”を狙いたいとする。 いきなりそこに踏み込むのではなく、まずは「医療器具OEMをやっている町工場3社」などに絞り、課題の深さを確認する。ここで何が見えるかによって、次のピボットや水平展開の判断が可能になる。
「どんな構造の中にいるか?」 を描いたうえで、「どのノード(接点)から着手するか?」を設計する。これを伝えなければ、「小さい話しかしてはいけない」と誤解させてしまう。まず描くべきは“スケールの構造”であり、“スモール”はあくまで入口の話だ。
拡張性は“構造”にこそ宿る
**将来、スケーラブルな事業へと育つかどうかは、入口のニッチさではなく、その後の“拡張可能性”の設計にかかっている。**つまり、「顧客像の拡大性」などのスケールアップ、「他市場・他領域への波及可能性」「プラットフォーム化の可能性」など、スケールアウトが可能と確信できる構造が描けているかどうかがポイントとなる。
**ここで有効なのが、「水平展開」と「垂直統合」という視点だ。**たとえば、最初は「農家向けの在庫管理ツール」だとしても、そこから得られるデータが「肥料サプライチェーンの最適化」に繋がる、もしくは「農業法人向け人材派遣」への派生が可能──といった“二手・三手先”の描写ができていれば、ニッチでも事業の“幹”として十分成立する。
スケーラビリティの有無は、最初の一歩ではなく、“構造の設計力”によって決まる。 それがグランドデザインが描けているかどうかだ。最初のアイデアの起点自体は、どんなに小粒でもいい。しかしその「小粒でもいい」は、「ビッグピクチャが描けるならば」という条件がついている。
それが、「なんでも小さく始めればいいわけじゃない」と伝えるときに話すべきことである。
小さな仮説検証の目的は、“構造仮説”の評価である
**スモールスタートで最も誤解されているのが、「顧客が一人でも使えば、それで成立する」と思ってしまうことだ。**N=1原理主義者は、顧客が一人でもいれば事業化に向けて猪突猛進に進むべきだという。
**そんなわけがない。**なぜならば、その一人が”特殊事例”である可能性は、一人しか見ていないのであれば排除できていないからだ。実際は、その一人の反応を通じて「どの構造要素が有効か?」を検証することこそが重要だ。
最初は、たった一人の顧客でいい。 ただし、その一人が「どんな課題構造の中にいて」「その構造は他に転用可能か」「市場にどんな歪みがあるか」を見極める視点を持つ。小さな行動の中に、構造的仮説を投影して検証すること──それが、スモールスタートの本質である。
そして見えてきた“未来の構造”を踏まえて、改めて「それはどれくらい多くの人にも適用されるものなのか」という視点は、必ず持たなければならない。
「小さく始めていい」と「N=1が見つかれば良い」はイコールではない。 「N=1」が見つかったということは、事業可能性があると断定されるものではなく、あくまで「事業化の可能性がゼロではない」ということの証明にすぎない。
それは、「多くの人が使ってくれる」かどうかを検証しにいくための、材料が出揃ったにすぎないのだ。 だからこそ、それをもとにビッグピクチャとしてのグランドデザインの実現可能性をストーリーとして語らなければならない。事業の価値は、「いま何人が使ってくれるか」ではなく、「この反応が構造的に再現されるか」によって評価されるのだから。
教えるべきは、“未来から逆算する”という姿勢
**伝えるべき最も重要なことを端的にいえば、「最初は小さく始めていい」という言葉の裏にある、“未来から逆算する姿勢”を持つということだ。**これは、ビジネスモデルの話だけではなく、思考の構造の話だ。
「小さく始める」は、「失敗しないように小さく始めよう」ではなく、「未来に大きく育つために、小さく始めよう」という思想である。 大きく育てるには、試行錯誤の余白が必要だし、仮説の立て直しが効くように設計しなければならない。そのために、小さく始めるのだ。
「これはまだ小さいけど、大きくなる構造が見えてます」──その視点こそが、スモールスタートを「スタート」に変える。 小粒ではなく、“拡張可能な最初の点”を描く力。「事業は未来から描くものだ」という思想を、何度でも言葉にし、価値観そのものとして定着させていくことが必要だ。
THE SEEDS 81
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