Q.
私たちはある「素材」を活かした事業をつくりたいと考えています。「誰を救いたいか」よりも、「この素材を活用したい」という思いが先にあるのですが、そうした順序での発想は問題でしょうか?顧客ニーズから考えるより、自社アセットから発想した方が納得感が強く、意義も見出しやすいと感じています。
- ︎ どこから始めても良い。** ただし“始点”に囚われすぎると全体を見失う
- ︎ 真に問うべきは「誰を、どんな未来に連れていくか」というビジョンの定義
- ︎ 素材はあくまで“手段”であり、ビジョン実現の文脈でその妥当性を判断する
「素材から始める」は問題ない。重要なのはは“どこに至るか”である
イノベーションや新規事業を始める際、「顧客課題から入るべきか?」「社会課題から考えるべきか?」「やっぱり自社の技術からでは?」 — — といった“どこから始めるべきか”というを様々な人が、様々な考えを発信している。また、実に多くの現場でもその議論が交わされている。
**しかし、これを考えることは、完全に意味のないことだ。**結論から言えば、どこから始めてもいい。顧客から入ってもいい。顧客課題からでも、社会課題からでも、技術や素材からでも構わない。それらはすべて“思考の入り口”に過ぎず、正解や優劣があるわけではない。
しかし、素材起点に不安を覚える感情は理解できる。 「始点をゴールと誤認してしまう」という構造的バイアスに陥ることで、それは引き起こされる。
心理学的に言えば、これは「アンカリング・バイアス」に近い。 つまり、最初に得た情報や視点に過度に固執し、それがすべての判断の基準になってしまっている。素材から考え始めると、すべてをその素材で無理やり解決しようとする“視野の狭さ”が生まれているのだ。
思考の出発点としての素材は尊重してもよい。 しかし、その素材が“未来の価値創造において妥当か?”と自問し続けない限り、それはただの“素材自慢”で終わってしまう。
「誰を、どんな未来に連れていくか」を先に考える
**素材を事業に昇華するために必要な問いとは何か?**それは、「誰を、どんな未来に連れていくのか?」という問いだ。
**イノベーションにおける根源的な思考軸は、常にビジョンにおかなければならない。**どんな“より良い社会”をつくりたいのか。その理想像を、独善的に一度は定義してみなければなりません。
このビジョンの定義は「空想」ではなく、「構想」だ。 未来において“ありうる世界”を、自身の価値観によって意志と情熱を伴って言語化する。その未来像に対して、「誰を連れていくのか?」を重ねて考えることで、ターゲット像が具体性を帯びる。
またビジョンを定義した上で、「その人たちは本当にその未来を望んでいるのか?」 という蓋然性を検証する。理想の未来が、顧客にとっても“より良い”と感じられるものなのか。ここにズレがあるならば、それは妄想でしかなくなる。
ビジョンが決まったら、手段を再評価せよ
**ビジョンと顧客の明確化、そして顧客のビジョンへの需要性に対する蓋然性。**これらが整ったら改めて、始点に立ち返る。本当にその未来を実現するための“有効な手段”となりうるのか?と。
**意識しなければならないのは、ビジョンを実現するための手段は一つとは限らないということ。**いやむしろ必ず複数あると考えるべき。その他の手段も網羅的に選択肢として並べた上で、本当に視点に置いた素材や技術、アイデアなどが、最良の手段なのかどうかを考える。
もし有効であれば、それはただの手段ではなく、「社会変革のレバー」へと進化する。 一方で、ビジョン実現に貢献しないと判断されるならば、そのときは迷わずピボットすべきだ。視点を変えるか、始点を捨てるか、ビジョンを再定義するか。そのいずれかのアクションを取る必要がある。
事業構想とは、固定された一本道ではなく、無数の仮説を往復しながら精緻化していく“探索の旅”なのだ。
バイアスを乗り越えるために「イテレーション」を続けよ
**素材や技術から入っても良い。**顧客から入っても良い。思いつきのアイデアやスタートアップの真似からでも良い。ただし、どこから入ったとしても、イテレーション(反復運動)をしなければならない。
・この素材や技術で、どんな社会が良くなるのか?
・その社会を誰が望んでいるのか?
・その人たちの行動変容は本当に起こるのか?
・なぜその未来を自社が実現すべきなのか?
このような問いを繰り返し、構造的に整理し、深堀りし、文脈をつなぎ直すことで、素材や技術は「戦略資産」へと昇華する。 逆に言えば、その構造化ができない素材は、新規事業の“熱源”にはなりえないということでもある。
「自社らしさ」を素材に込めよ
**とはいえ、素材や技術から考えることには大きな利点もある。**それは、自社の文脈を内包していること。素材や技術には、自社の強みや独自性、研究開発の歴史が刻まれています。だからこそ、素材を活かした事業は「自社らしい」ストーリーを描きやすい。
重要なのは、「素材や技術を使いたいから使う」ではなく、「この未来を実現するために、なぜ私たちがこの素材や技術で挑むのか?」 という必然性を構築すること。
素材や技術への愛が社会の未来と接続されるとき、そこには強い意志と情熱と執念が宿る。 それこそがイノベーションの大きなうねりとなる。
素材や技術は、出発点であり、強みであり、情熱の源泉で良い。
誰を、どんな未来に連れていきたいのか。 そのストーリーの中でこそ、素材や技術は本当の力を発揮する。
自らへの問いを変えよう。
「この素材や技術で何ができるか?」ではなく — —
「どの未来に、この素材や技術でどう挑むか?」と。
THE SEEDS 81
イノベーションの種を撒き散らかす手紙。
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