Q. うちの会社は既存事業がすごく強くて、売上も利益も出ています。その分、新規事業の提案が「今やる意味ある?」と流されてしまうことが多いです。特に、既存の事業分野から少し離れたテーマだと、「なぜこの会社でやる必要があるのか?」とよく聞かれます。この壁を越えるためのコツがあれば教えてください。できれば成功事例も知りたいです。
- 「なぜこの会社でやるのか?」** には、未来の必然を構造で語れ
- 既存の強みと新事業を、共通の「課題解決視点」でつなげる
- 本気でやる覚悟と、検証プロセスの“筋の良さ”が突破口になる
「事業ドミナント」と「経営ドミナント」の違いを見極めよ
ボク自身も既存事業が強い企業で新規提案をして、何度も玉砕してきた。
「それ、今じゃなくてもいいよね」
「うちでやる必然性が見えない」
そう言われて、資料をゴミ箱に放り込んだ夜は数知れない。
熱意だけでは、既存事業の重力には勝てないのだ。 必要なのは、構造と筋と、そして”地続き感”である。
強い既存事業を持つ企業において、新規事業提案が通らない理由の多くは、「事業ドミナント思考」によるものだ。
つまり、既存の事業モデルや顧客層を軸に思考し、「今の勝ち筋からズレていないか?」 という目線で判断される。
だが、新規事業において重要なのは「経営ドミナント思考」だ。
経営ドミナントとは、顧客との接点、技術資産、ブランド信頼、規制対応力など、企業としての根源的な強みを指す。
新領域の事業でも、この「経営ドミナント」と地続きであることを構造的に語れるかどうかがカギになる。
たとえば、日立製作所が「Lumada(ルマーダ)」というデータ活用サービスに踏み出したのは、既存の重厚長大型事業とは異なる方向だった。
しかし、社会インフラを扱う企業として「運用データを蓄積し、社会課題の可視化に活かす」という構造では連続している。
これが未来の必然だと語れるか。 それが新事業提案の第一関門だ。
共通の「社会課題」を軸に、既存と新規を“地続き”にせよ
事業の分野が異なっても、共通の「社会課題」や「カスタマーの非充足ニーズ」に根ざしていれば、事業の正当性は生まれる。
**つまり、「我々はこれまで○○業界で××の課題を解決してきた。**今回は別業界だが、同じ構造の課題がここにもある」というアプローチが有効だ。
たとえば、ある製薬企業は「人々の健康を守る」というミッションを軸に、病院向けのSaaSや高齢者の見守りサービスなど、非製薬分野にも進出している。
いずれも「健康に対する不安を軽減する」点で、既存と新規が地続きである。
このように、事業分野が異なっても「共通する問題構造」や「同じユースケース」にフォーカスすることで、提案の説得力を高めることができる。
新規性よりも“連続性”を、そして、”歴史的価値の継承”を語ること。 これが突破口になり得る。
「市場の変化」と「時間軸」を織り交ぜた提案構造を描け
新規事業が今すぐ必要でないと見なされるのは、「いま急がなくても良さそう」と思われてしまうからだ。
**そこで重要になるのが、「なぜ今このタイミングで着手すべきか?」**という時間軸のストーリーである。
たとえば、
「業界再編の兆しが3年以内に顕在化する」
「5年以内に規制緩和が起こる見込み」
「2030年に向けて人材構造が大きく変化する」
といったマクロの文脈を盛り込むことで、「今、先に打っておく理由」が生まれる。
また、既存事業が強ければ強いほど、「そのままでは10年後に縮小する可能性」を描き出すことも重要だ。
守りの論理ではなく、「成長し続けるためには、どこで賭けに出るか?」 という未来志向の論理で語るべきだ。
「試して学ぶ」プロセスを、エヴィデンス重視で設計せよ
**新規事業提案の難所は、「本当に上手くいくのか?」**という不安である。
この不安を払拭するには、「試しながら学ぶプロセス(=MVP→検証→ピボット)」の設計が鍵になる。
ここで大切なのは、“思いつき”ではなく“構造とエヴィデンス”で語ること。
たとえば「この仮説をこの指標で検証し、初期のニーズとスケール可能性を段階的に確認していく」といった筋の良い設計があれば、信頼を得やすくなる。
過去の成功事例でも、「とにかくやらせてください!」 という熱意だけではなく、検証プロセスのスマートさが後押しになったケースが多い。
感情と構造の両輪を揃えること。 それが社内突破の最短ルートだ。
参考になる実践事例:エーザイ、日立、ブリヂストン
**●エーザイ:製薬から「生活者の健康QOL支援」へと軸を拡張し、食品・デジタルヘルスなど異領域へ展開。**既存の「健康を守る知見」を活かした見事な事業連携。
**●日立:Lumadaは鉄道・エネルギーなど既存事業の「運用データ」をベースにしつつ、AIやIoTで異業種化。**技術資産の地続き感が社内合意を引き出した好例。
●ブリヂストン:タイヤメーカーから「モビリティソリューション」へと領域拡張。 センサー搭載やデータ解析によって、事業の視座を変えた先進事例。
これらに共通するのは、「自社の強みを再定義し、それを異領域でも発揮する構造」を描けている点にある。
単なる脱却ではなく、“進化としての新規事業”という位置づけが、社内の理解と協力を引き寄せたのだ。
コーポレート・フィットを語り尽くせ
新規事業とは、勇気の提案である。
だがその勇気は、情熱だけでは届かない。 構造とエヴィデンス、時間軸と使命感、そして共感可能な未来像。
それらを揃えたとき、どんなに遠く見える領域でも、企業の内側から力強く進み出せる。
「なぜこの会社でやるのか?」
その問いへの答えこそが、新規事業そのものであり、決して後回しにしてはならない。
THE SEEDS 81
イノベーションの種を撒き散らかす手紙。
ピンキーが毎週お届けする、新規事業のヒントと思考実験。
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