Q. 「事業は小さく始めて大きく育てる」といいますが、実際どれくらいの規模感がスモールスタートなのでしょうか?ターゲット数、協力者数、期間など、具体的な目安を教えてください。
- ︎ スモールスタートの本質は「小さく始める」ことではなく、「学習効率の最大化」にある
- ︎ ターゲットは「N=1」、協力者は「3人以内」、期間は「2週間」
- ︎ 売上やスケールではなく、「深い共感」と「手応え」を発見せよ
スモールスタートの目的は「学習」
「スモールスタート」という言葉は、しばしば誤解されている。「予算がないから小さくやる」「リスクを避けてこじんまりやる」といった消極的な意味だと思っている人が多い。
**もちろん、リスクヘッジの側面はある。**しかし、新規事業におけるスモールスタートの本質はそこではない。真の目的は「仮説検証のサイクルを最速で回し、学習効率を最大化すること」にある。
大きく始めると、失敗した時のダメージが大きいだけでなく、何が失敗の原因だったのかが特定しづらくなる。 複雑な要因が絡み合うからだ。だからこそ、極限まで変数を絞り込む必要がある。
「これさえあれば勝てる」という核(コア)だけを残し、それ以外を削ぎ落とす。 そうしなければ、何が良くて何が悪かったのか、ノイズ(雑音)が混じって正しい学習ができない。
では、具体的な“スモール”の基準はどこにあるのか。 ボクは以下の3軸で定義している。
1. ターゲット:N=1
2. チームメンバー:3人以内
3. 期間:2〜4週間
これ以上広げると、それはもはや「検証」ではなく、ただの「小さな事業運営」になってしまう。
我々が今やりたいのは「事業が回るか(Operation)」の確認ではなく、「仮説が正しいか(Value)」の確認だ。 そのためには、このサイズ感が最適解となる。
ターゲットは「N=1」
**まずターゲットについて。**多くの人は不安だからといって、100人にアンケートを取りたがる。だが、初期フェーズで必要なのは「100人のふんわりした賛成」ではない。「たった1人の熱狂的な肯定」だ。
「N=1」の鉄則は、ある特定の個人が、涙を流して喜ぶレベル、あるいは「これがないと生きていけない」とすがりつくレベルまで深掘りすることにある。
多くを狙うと、プロダクトは必然的に平均化され、角が取れ、誰の心にも刺さらない丸い石ころになる。 一人の深い熱狂を作れなければ、それを千人、万人に広げることなどできるはずがないのだ。
チームメンバーは「3人以内」
**次にチーム体制について。**意思決定に関わるコアメンバーは、多くて3人以内がいい。理由はシンプルで、コミュニケーションコストを下げ、合議制を排除するためだ。
**新規事業の最大の敵は「調整」と「妥協」だ。**5人も6人も集まれば、会議の日程調整だけで消耗し、意見をまとめるために「無難な案」が採用される。これではイノベーションなど起きようがない。
Amazonのジェフ・ベゾスが提唱した「2枚のピザ理論(2 Pizza Rule)」をご存知だろうか。 「チームの人数は、2枚のピザで食事が賄える規模(5〜8人程度)に抑えるべき」という考え方だ。
検証フェーズでは、それよりもさらに少ない3人でいい。 阿吽の呼吸で動ける少人数精鋭で、即断即決・朝令朝改で進める。リーダーが右と言えば、全員が即座に右に走る。このスピード感こそが、巨象(大企業)に勝てる唯一の武器なのだ。
期間は「1スプリント(2週間)」で白黒つける
**最後に期間について。**ダラダラと3ヶ月も半年もかけて準備してはいけない。パーキンソンの法則が示す通り、仕事は与えられた時間をすべて使い切るまで膨張する。期限を短く切ることで、強制的に優先順位をつけるのだ。
具体的には、2〜4週間程度、つまり1〜2回の開発スプリントで何かしらの検証結果が出るように設計する。「半年後にリリースして反応を見よう」では遅すぎる。今日作って、明日見せて、明後日直す。このリズムだ。
例えば、「プロトタイプを作って顧客に見せ、購入意向があるか確認する」までを2週間でやる。 完璧なものを作る必要はない。手書きのチラシでも、パワーポイントで動く紙芝居でも、LP(ランディングページ)一枚でもいい。
重要なのは、実際に顧客が財布を開こうとしたか(Willingness to Pay)、あるいはメールアドレスを登録したかという「行動の事実」を掴むことだ。
この段階では、売上の大きさやユーザー数はゴールではない。 むしろ、「なぜこの人はこれを欲しがったのか?」「なぜ買わなかったのか?」という定性的な学びを得ることこそが成果だ。
学び、気づき、次への手応えを掴む。 そのために、極限まで要素を削ぎ落とす。
結論:小さく産んで、鋭く刺せ
「小さく産んで、大きく育てる」という言葉があるが、少しニュアンスを変えたい。
「小さく産んで、深く刺す」のだ。
小さくするのは、弱気だからではない。 鋭く尖らせるためだ。針のように鋭く研ぎ澄まされたコンセプトだけが、分厚い市場の壁を貫通することができる。
不必要な機能、過剰な人員、長すぎる計画。 これらすべての「ぜい肉」を削ぎ落とし、筋肉と骨だけの姿になること。
それが、正しいスモールスタートの設計思想である。 恐怖に打ち勝ち、削ぎ落とせ。その先にはじめて、本質が見えてくる。
THE SEEDS 81
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