Q. 経営者が「良い」と思うアイデアと、ユーザーにとって「良い」アイデアが食い違うとき、どう説得すればよいでしょうか?
- ︎ 経営者の“正論”が、現場の発見や熱量を押し潰してしまうことがある
- ︎ 必要なのは、視座を揃え、未来像と数字の両面から納得させる構造
- ︎ 対話と小さな成功の積み上げが、経営者を“共犯者”へと変える鍵
経営者の「正論」が、顧客のリアルとズレるときがある
**新規事業の現場ではよくある光景だ。**起案者がユーザーと向き合い、リアルな課題を見出し、「これだ」と思えるアイデアに辿り着く。だがその瞬間、経営者からは「よく分からない」「もっと大きな絵を描けないか?」と突き返される。現場の“実感”と、経営の“正論”が噛み合わない。
**当然ながら、経営者が見ているのは「スケーラビリティ」「再現性」「収益性」。**一方、現場が感じ取っているのは「小さなニーズ」「不満の微細な兆し」「感情の引っかかり」だ。その差は“正しさ”の違いではない。見ているレイヤーが異なるだけだ。
だが、そのズレを放置すれば、起案者は「どうせ分かってもらえない」と意欲を失い、経営者は「若手は考えが浅い」と壁を作る。 イノベーションに必要なのは、両者の視座を「ぶつけ合う」ことではなく、「交差させる」ことだ。
まず“未来の共通認識”をつくる
**最初にすべきは、「なぜこのテーマに取り組むのか」を言語化することだ。**どんな社会課題を解決し、どんな未来を創ろうとしているのか。その構想に“経営者の視点”を組み込んでおく必要がある。
**経営者は常に「全社戦略との整合性」を見ている。**既存事業とのシナジーや、資源配分の合理性を考えている。その観点から「なぜ今、このテーマをやるべきなのか」をロジカルに提示する。それだけで納得感は大きく変わる。
例えば「既存事業では解決できない新たな顧客課題にアプローチできる」「将来の中核事業につながる技術アセットが蓄積される」といった言語で翻訳することが必要だ。 つまり、ユーザーの声をそのまま伝えるのではなく、“経営者に刺さる言葉”に変換することが、交差点を生む第一歩になる。
経営者が気にする「数字の絵」を見せる
**次に重要なのは、「将来の売上の絵」を描くこと。**今の時点で完璧な収益計画は不要だが、「このニーズが広がると、どういう市場になるのか」「どこまでスケールする可能性があるのか」を具体的に見せることが不可欠だ。
そのときに使えるのが、「現在→変化→未来市場」のストーリー構造だ。
・今、どんなニーズが見過ごされているか
・なぜこのニーズが拡大していくのか(技術変化、社会変化、消費行動の変化)
・その先に、どんな未来市場が生まれるか
この「変化の確度」と「未来市場の妥当性」が伝われば、経営者の目は変わる。 感情論ではなく、戦略的判断としてそのアイデアを“アセット”と捉えるようになるからだ。
データではなく“確信”を伝える
**ただし、数字だけで説得できるとは限らない。**新規事業の初期は、定量データが乏しいのが常だ。そこに必要なのは「確信」だ。
**経営者は、「この人はどこまで本気なのか」「どこまで顧客に寄り添っているのか」を見ている。**誰よりも顧客を知っている。誰よりも現場で汗をかいている。そのテーマ領域において社内で一番の専門家と言えるほどの知識量がある。その事実がにじみ出るとき、データを超えて経営者の心は動く。
その昔「市場は小さい」と言われたアイデアがあった。 だが、起案者が自腹で展示会に出展し、顧客の声を集めてきた。A4一枚のレポートに、顧客の「これが欲しい」という切実な言葉が載っていた。その瞬間、経営者の態度は180度変わった。
つまり説得とは、上から目線で経営者に「教える」というスタンスをとることではなく、異なる視座を交差させ、相手の目線にも立って共感を促し、「動かす」ことが重要となる。
“対話”によって経営者を共犯者にする
**もちろん、口で丸め込んで論破することではない。**必要なのは対話の積み重ねだ。「一発プレゼン」で心を動かそうとするのではなく、小さな議論を重ねることで、少しずつ“共犯者”にしていくのだ。
**そのためには、経営者の思考プロセスにアクセスし、「なぜそれを不安に思っているのか」を丁寧に理解する必要がある。**そしてその不安を一つひとつ潰すように、検証のステップを組み立てる。「あなたが懸念していた点は、こういう実証を進めています」と伝えるだけで、経営者は味方になる。
また、「小さくてもいいので先に結果を出す」ことも重要だ。 ファクトは最大の説得材料である。PoCで反応が得られた、インタビューでN=1の感動があった──それだけで議論の重みは一変する。
説得のゴールは“味方をつくる”こと
説得のゴールは「Yesをもらうこと」ではない。「理解を得ること」でもない。「味方になってもらうこと」だ。その点を忘れてはいけない。だからこそ「上から目線」はもってのほかだ。
そのために「なぜこの未来を創りたいのか」を語ることが必要となる。 ビジョンであり、情熱が必要なのだ。論理を超えて、人の意志が動くときがある。それは、「この人と一緒に未来を創りたい」と思わせたときだけだ。
あなたの目に映る顧客の姿を、未来の風景を、まっすぐに経営者に語ろう。 そして、数字で不安を潰し、行動で信頼を積み重ねよう。そうすれば、いつか経営者はこう言うだろう。「分かった。任せた」と。それが、真の“説得”である。
THE SEEDS 81
イノベーションの種を撒き散らかす手紙。
ピンキーが毎週お届けする、新規事業のヒントと思考実験。
Powered by Substack
