Q. 技術者として新規事業に関わると、
どうしても技術起点で考えてしまいがちです。
全体のデザインを考えるうえで、
日頃から最も意識すべきことは何でしょうか?
✔︎ 「何ができるか」ではなく「何に効くか」から始めよ
✔︎ 技術の価値は“文脈”に宿る
✔︎ プロダクトアウトの呪縛を超えて、“意味の構造”を設計せよ
「技術的に可能」は、価値にならない
多くの技術者が陥る落とし穴は、「自分たちの技術がどれだけすごいか」を語りたくなってしまうことだ。しかし、顧客にとって重要なのは、“技術の素晴らしさ”ではなく、“自分にとって何の意味があるのか”である。
プロダクトアウトの発想は「できること」から考えるが、顧客起点の発想は、「求められること」から始まる。この順番を取り違えた瞬間、プロジェクトは独りよがりな方向に進んでいく。
だからこそ、技術者こそまず「誰の、どんな文脈に、どう効くのか」を徹底的に考えなければならない。技術の“価値”とは、単体では成立せず、“誰かの現実”との関係性の中にしか存在しないのだ。
技術の進化が“罠”になるとき
技術者がよくやってしまうのが、仕様やスペックの追求である。「これだけのことができるようになった」「この処理速度が出せるようになった」と、技術の進歩自体を目的化してしまう。だがそれは、過剰仕様・過剰スペックの落とし穴に直結する。
たとえば録画機の進化がある。VHS、DVD、Blu-ray、全局録画、数TBのHDD録画と技術は進化したが、全てを録っている人が、全てを見るだろうか?見ない。むしろ、“何を見るかを選ぶのがしんどい”という新たな課題を生んでいる。
一方でネット配信サービスは、当初は回線も遅く、コンテンツも限られていたが、今ではスマホでオンデマンドに映画が見られるほど進化した。録画機が追い続けた「高性能」は時代に置き去りにされ、「いつでも見たい時に見たい」という本質的なニーズに寄り添ったサービスが主役になったのだ。
テクノロジーを「意味」に翻訳せよ
技術には、可能性と呪縛の両面がある。可能性とは、まだ見ぬ体験を社会にもたらせること。呪縛とは、作り手の「こうあるべき」が押しつけになること。両者の違いを分けるのが、“意味の構造設計”だ。
技術を価値に変えるには、それがもたらす変化を、誰の人生にどう位置づけるかを言語化できなければならない。例えば、「自動化できる」ではなく、「煩雑な作業から解放され、自分の時間を取り戻せる」。この“意味づけの翻訳”がなければ、技術は届かない。
そのために必要なのは、ユーザーの感情・日常・欲望にまで降りていく観察力であり、抽象的な技術概念を、生活者の言葉に翻訳する対話力である。技術は、翻訳されて初めて、人を動かす。
プロダクトから「構造」へと視野を広げる
技術者の視点は、時に“モノづくり”に閉じてしまう。だが、新規事業において求められるのは、プロダクト単体ではなく、そのプロダクトが社会にどう組み込まれ、どう機能するかという「構造のデザイン」である。
たとえば、IoT技術を活用して素晴らしいセンサーを作っても、それをどう使うのか、誰がどう導入し、どう活用し、どう課金されるのか──その全体構造が描けていなければ、ビジネスにはならない。
技術者は、“自分たちの作るモノ”だけにフォーカスするのではなく、“価値が届けられる仕組み”全体を構想できる存在であるべきだ。それは、技術者が“ビジネスデザイナー”に進化するということでもある。
「意味」から構想し、「技術」は最後にくっつける
真に価値のある事業は、「何が作れるか」からではなく、「何を届けたいか」から始まる。だからこそ、最初に考えるべきは、“実現可能性”ではなく、“意味の必然性”だ。
意味の必然性とは、技術がなかったとしても、別の方法で実現したくなるほどの「問い」を抱えていること。そこに共感する人が現れたとき、初めて「その実現手段として技術が使われる」状態になる。
つまり技術は、最後に“答えとして”導入されるべきものであり、“問い”の出発点ではない。その順番を守れるかどうかが、技術者が価値を生むための最大の分岐点なのだ。
📖 イノベーション・プロセスの入門書
超・実践! 事業を創出・構築・加速させる
『グランドデザイン大全』
- #01:グランドデザインとは?
📖 イノベーションに挑むマインドセット(連載中)
『BELIEF』
根拠のない自信が未来を切り拓く
📺 最新セミナー動画
- 企画止まりの事業を「実行」に移すには? 〜アイデア創出で立ち止まらないために〜
- 【新規事業のいろは】新規事業創出のプロセスを理解する
- 【新規事業のいろは】イノベーションに挑む「マインドセット」を理解する
- 事業創出の「文化醸成」〜みんながチャレンジしたくなる制度作りとは?〜
- 脱・フレームワーク症候群〜形式より成果に集中して事業創出を〜
- 事業創出と商品開発の違い〜新しいビジネスモデルを考える~
- イケてる事業アイデアの創出:実践編 〜具体的なツール、量、期間、判断基準〜
- 事業アイデアは「閃く」もの 〜インプットの量が、良質なアイデアへと繋がる
- 事業プロジェクトの判断基準
- 事業創出の「文化醸成」〜みんながチャレンジしたくなる制度作りとは?〜
- 新規事業は、顧客の「不」から始めてはいけない
- 新規事業プロジェクトの最適な役割分担とは?
- イケてるアイデアは「越境」から始まる
- 外部メンターの”上手な”選び方
📺 新規事業Q&A動画
📝 お薦めコラム
- デザイン思考だからといって、アイデアを顧客起点で必ず考える必要はない
- イノベーションは「自責」によってしか成し得ない
- 目的は「イノベーションを成し、世界をより良くする」こと。それ以上でも以下でもない
- 新規事業は「やる気のある無能」がぶち壊す
- 新規事業に取り組むなら、社会課題は解決しようとしてはいけない
- デザイン思考は、イノベーションの万能薬ではない
📕 新規事業Q&Aコラム
- 技術中心の思考をどう乗り越える?
- メンターはフェーズごとに変えるべきか?
- 新規事業は失敗しても、キャリアに意味がある?
- なぜ「N=1」にフォーカスしなければならないのか?
- 事業を生み出せる組織は、何から変えているのか?
- なぜ企業では新規事業が生まれづらいのか?
- イニシャルコストとランニングコストの関係性は?
- アイデアの“筋がいい”とは何か?
- 顧客に引っ張られず、破壊的アイデアを生むには?
- “飛び地領域”で、顧客課題をどう見つける?
📝 最新コラム
- 失敗は、未来の成功のための学びの場
- イノベーションのためのビジネスデザイン:視野を広げ、経験から学ぶ
- イノベーションとは知性主義に対する、反知性主義の逆襲である
- イノベーションは、Z世代と共に、未来を創る
- 自主性と挑戦を促す「問いかけ」がイノベーティブな文化を創る
- 経営は「新規事業ウォッシュ」をやめ、本気で取り組まねばならない
- 新規事業推進に必要なのは「説得」ではなく、「納得」を得るための「対話」である
- モノづくりに、サービスデザイン、ビジネスデザイン、システムデザインを加えた四輪がイノベーションを加速する
- 世界をより良くするためにこそ、ルールに従わない自由を強く意識すべきだ
- 出島戦略を採るべき理由:既存事業と新規事業は分かり合えないことを前提に、組織を構築する