Q. イノベーションを起こしたスタートアップの多くは、
目の前の課題や好奇心から始まり、
ビジョンはあとから語られているように感じます。
私たちがまだ具体的なアイデアを持っていない段階で、
先にビジョンを掲げることに意味はあるのでしょうか?
✔︎ イノベーションは“違和感”から始まり、“仮のビジョン”によって加速する
✔︎ ビジョンを言語化することで、行動の軸と検証の手がかりが生まれる
✔︎ だからこそ、最初にビジョンを掲げずして、未来には辿り着けない
イノベーションの原点は「違和感」だが、それだけでは届かない
確かに多くのスタートアップの始まりは、壮大なビジョンではなく、個人的な違和感や目の前のちょっとした課題解決にある。それ自体は間違っていない。しかし、誤解してはいけないのは、彼らが最初から何も考えずに動いていたわけではないということだ。
彼らの中には、「こんな未来があったらいいな」という、言語化されていない仮の未来像が必ずあった。それは“ビジョン”として明文化されていなかっただけで、確かに存在していた。
その未熟な想いを、あえて言葉にしてみる。するとその瞬間から、視点が変わる。視点が変われば、問いが生まれ、問いがあるから行動が始まる。そしてその行動の中で、新たな学びと気づきが得られる。その“往復運動”の起点にこそ、仮のビジョンが必要なのだ。
仮説としてのビジョンが、行動と検証を駆動する
「ビジョン」と言うと、つい“高尚で完璧なもの”を思い浮かべてしまいがちだ。だが、最初に必要なのは「完成されたビジョン」ではない。大切なのは、「自分なりの未来像を、仮説として掲げること」だ。
なぜなら、ビジョンを言葉にすれば、そこに向かって「今、何を検証すべきか」が見えてくる。顧客インタビューも、競合分析も、情報収集も、「ビジョンとのギャップを埋める」ための行動に変わる。意味が生まれ、構造が見え、手応えが積み上がっていく。
ビジョンがないまま動けば、行動は行き当たりばったりになる。判断軸が曖昧になり、手段が目的化し、ピボットのタイミングさえ見失う。だからこそ、未完成でもいい。「仮のビジョン」こそが、戦略的行動の羅針盤になるのだ。
アイデア先行は「アイデア・ロック」を引き起こす
もうひとつ、いきなり「アイデア」から始めてしまうことには、明確なリスクがある。それが「アイデア・ロック」だ。これは、自分の出したアイデアに愛着が湧きすぎてしまい、間違っていると気づいても方向転換できなくなる現象を指す。視野が狭まり、検証も曖昧になり、「正しい問い」ではなく「好きな手段」を守ろうとしてしまう。
ビジョンがなければ、「何のためにそれをやるのか」が曖昧になる。アイデアはあくまで手段であり、ビジョンという“問い”があるからこそ、初めて「その手段はふさわしいか?」という視点が持てるのだ。地図のない航海は、いつまでたっても目的地に辿り着かない。ビジョンとは、その最初の地図である。
スタートアップと企業内新規事業は「時間軸」が違う
確かに、スタートアップはアイデアから走り出してもいい。彼らには自由があり、時間があり、失敗する権利がある。創業者の意志だけで、何度でもやり直すことができる。
しかし企業内新規事業では、そうはいかない。限られた時間、限られたリソース、限られた“失敗の余白”。これらを背負った上で、結果を出さなければならない。
だからこそ、「遠回りを避ける」戦略が求められる。その最短ルートを示すのが、ビジョンだ。ビジョンがあるからこそ、無数のアイデアから適切なものを選び、検証し、早期に見極めることができる。限られたリソースで最大の成果を出すためには、仮でもいいから「未来の地図」が必要なのだ。
未熟でも構わない。まずは“仮のビジョン”を言葉にせよ
最後に伝えたいのは、「整ったビジョンを掲げることが大事なのではない」ということだ。むしろ、整っていなくていい。未熟でいい。間違っていても構わない。
重要なのは、「自分なりに描いた未来像を、仮説として言葉にしてみること」だ。それが、違和感を構造に変え、偶然を必然に変えていくプロセスの始まりになる。
仮説としてのビジョンを掲げてみる。行動する。検証する。修正する。そうやって、少しずつ“仮”が“確信”へと変わっていく。その積み重ねこそが、新規事業の本質である。
「Visionはあとからついてくる」のではない。最初に仮説として立てておくからこそ、あとから“本物になる”のだ。
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